コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学

 タイトルを見て、コンサルタントなんて別に興味ねえや、と思ったあなた、まあ待ちなさい。俺だって別にコンサルティングの仕事をしているわけじゃない。この本を手に取ったのは、たまたまこちらの書評で興味を持ったからなのだが、閉店間際のジュンク堂で本を見つけてぱらぱらめくってみたら、前書きにこんなことが書かれていて一気に引っ掴まれた。

 この本は、コンサルタントになるための方法を書いた本ではない。(略)私がフルタイムのコンサルタントになったときすぐに気づいたのは、世界が彼らにとって合理的に動いているときに影響を及ぼしてくれと頼んでくる人々はほとんどない、ということであった。その結果としてコンサルタントは、異常に多くの非合理性に出会うことになりがちである。(略)
 だが私は、たいていのときは、その非合理性に耐えられる範囲において、依頼主との直接のやり取りを楽しみにしてきた。私がこの業界にとどまるためには、選択の余地は次の二つしかないように思われた。
 
一、合理的であり続け、発狂する。
二、非合理的になって、気違いと呼ばれる。
 
長年にわたって私は、このみじめな両極の間を行きつ戻りつしていた。だがついに私は、第三の道があることに思い当たった。それは、
 
三、非合理性に対して合理的になること
 
だった。この本は、影響してくれという要請をめぐる、一見非合理的な行動にひそむ合理性に関しての、私の発見を述べたものである。それがコンサルタントの秘密である。この表題から見て、この本はコンサルタントのための本だという感じを持たれる向きもあるかもしれないが、実はこの本はわれわれのこの非合理的な世界の中で混乱し、それについて何かをしたいと思っているすべての人々のための本なのである。

 上に引用した部分だけで、届く人には届くだろう。およそこの社会で生活している中で、非合理性に対処する方法論を必要としない人はほとんどいないのではないだろうか。これがピンとこないあなたはよほど恵まれている(か、もしくは、周囲に非合理性を振りまいて生きている、混沌の神官みたいな存在なのだろう)。
 自分の中の筋道、合理的な思考、「当然こうあるべき」という信念、などなどが、周囲の環境の非合理性によってボキボキ折られることに日々悩んでいる人は多い。自分の身のまわりにもたくさんいる。あなたはどうだろうか? あなたがそのことで絶望しているなら、それはもしかすると、「非合理性に対して合理的になる」ことができていないだけかもしれない。というわけで、発狂する前に読んでみることをお勧めする。合理性に殉じようと非合理性に堕ちようと、どうせ頭がおかしくなるのは変わらないのだから、まだ考える頭が残っているうちに本一冊読むぐらい損ではあるまい。きっと何がしかの洞察は得られるはずである。

コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学

コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学