カラシニコフ ISBN:4022579293

walkeri2004-09-09

 AK47に代表されるロシアのアサルトライフル、AKシリーズ。設計者の名を取ってカラシニコフと呼ばれるこの銃は、どんなに苛酷な環境でも動く頑丈さと、単純な構造による扱いの容易さ、大量生産による安価さによって世界中に広まった。中でも第三世界の紛争地帯には、軍人の数をはるかに上回るAKが怒涛のごとく送り込まれ、数知れない悲劇を生み出した。世界中の地域紛争の背後には、常にAKがあった。
 この本は、主にアフリカを舞台に、AKが使われている現場を取材したルポルタージュだ。子供でも分解組み立てができる扱いやすさと、泥の中に放り出しておいてもなんの支障もなく動作する信頼性は、テクノロジーの粋を凝らした精密機械のような先進国の自動小銃とは対極に位置する。管理に熟練を要しないAKはたくさんのチャイルドソルジャーを生み出し、貧困国での暴力をエスカレートさせてきた。
 AKを設計したカラシニコフは存命しており、本書には彼の貴重なインタビューも収録されている。安易な価値判断に走ることなく、中立的な視点でAKの出自を描くこの部分はとりわけ興味深いものだった。著者の批判は主に、AKでも、AKを使う人々でもなく、国内の治安の悪化を無視して私腹を肥やす、アフリカの無能な為政者たちに向けられている。国をよくしようとする努力もしない、これら「失敗した国々」(Failed States)との付き合い方を日本も考え直すべきではないのか、という指摘には説得力がある。
 悲惨な話が多い中、最後の章に書かれたソマリランド共和国の事例は衝撃的だ。ソマリランドは内乱を嫌ってソマリアから独立した国で、国内に蔓延した銃を何年もかけて国の管理下に置き直し、治安を回復することに成功しているのだ。ソマリアの惨憺たる状況を鑑みるに、なんとも驚くほかない。ソマリランドは国連に認められていないが、ソマリアよりよほどまともに国を運営しており、地獄さながらのアフリカの地域紛争にも、決して出口がないわけではないのだという希望の光をもたらしてくれる。
 この本の元になったのは朝日新聞の連載記事で、連載中から既に評判が高かった。図書館でも順番待ちになるほどだと聞く。地域紛争をAKという戦争ハードウェアの面から捉えなおす試みは刺激的で、現代アフリカを扱ったノンフィクションとしても非常に面白い。強くお勧めする。