グローリアーナ

 『ゴーメンガースト』へのオマージュと銘打たれているのも納得の、ページに白いところがほとんどない重量級のゴシックロマン。豪華絢爛な描写に大瀧啓裕の訳文が拍車をかけてえらいことですが、その割にすんなり読み終わったのは意外でした。すごいエンターテインメントというわけでもないけど、リーダビリティは意外と高い気もします。なんとなく「陰鬱な『カルバニア物語』」みたいな感じも受けました。
 「有り得たかもしれない」もうひとつのイギリス、アルビオン大ロンドンの只中に聳え立つ巨大な城を舞台に、満たされぬ渇望に身を灼く女王グローリアーナを焦点として、宮廷の内外に渦巻く陰謀劇が描かれます。全体的に雰囲気が淫靡でよいです。女王の後宮はたいへん居心地がよさそうで、あんなところに寝起きしてたら駄目になりそう。グローリアーナが赤毛の大女なのは、ガートルードの若いころのイメージでしょうか。
 一応、ムアコックの多元宇宙に属する世界ではあるのですが、超自然要素はほとんどありません。JとCで始まるあの人は、この世界では誰の「介添人」だったのかな。スカイスの伯爵夫人?
 大昔から増築を重ねて巨大に膨れ上がった城には、壁の中の通路や、忘れ去られた部屋部屋、目の退化した人類以前の種族が住まう土台の下の洞窟などが隠されていて、物語の中でも重要な役割を果たすのですが、欲を言えばもうちょっとそっちの比重を多くしてほしかったなあと個人的には思います。

グローリアーナ (創元推理文庫)

グローリアーナ (創元推理文庫)