【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り

 この本、確か『もののけ姫』が公開された頃に、参考文献として推奨されていた記憶があります。新版で出ていたのでこの機会に買ってみたら大当たり。中世日本の戦場では、殺しと盗みのプロである略奪集団が正規軍の一角を占め、村々を荒らしまわっていたという事実を丹念に描き出した本で、非常に刺激的でした。襲われた村は火をかけられ、田畑を根こそぎ刈り取られるばかりか、生き残りはごっそり攫われて売られてしまいます。人買いが大手を振って都を歩き、奴隷貿易がごく普通に行われていたという実態は、呆気にとられるほど凄まじいものです。
 驚くべきことに、奴隷貿易は海を超えて東南アジアにまで及んでいたようです。国内で確保された奴隷が南蛮船によってフィリピン、インドネシアへと輸送され、この地域で覇権を争う西洋諸国は、安価な労働力としてこれに依存していたとか。また、中間(ちゅうげん)や小者(こもの)など、武士階級の最底辺の者たちが、稼ぎ口である戦場を求めて、朝鮮半島や中国沿岸、東南アジアへと大挙して海を渡り、傭兵あるいは略奪者として暴れまわった様子も詳しく書かれています。中世日本が膨大な数の戦争従事者、略奪を生業とする悪党どもで溢れ返った修羅の巷であったことだけではなく、秀吉による天下統一を迎えて、今度はそのエネルギーを抑制しなければならなかった為政者の苦労が見えてきて、大変興味深く読みました。
 日本史に疎い自分にとって、この中世の地獄絵図は、別のところでひどく馴染みのあるものでした。現代アフリカの数々の紛争や、チェチェンにおける軍の略奪と人質ビジネスは、中世日本の悪党たちの所業と不気味なほど似ています。いま文字通りの中世にある(get medievalな)かの国々と、かつての日本が同じだという事実を知るだけでも、ちょっとした歴史観の転換が体験できること請け合い。
 ゲーマーとしての感想を述べると、読んだあとわかりやすく中世日本もののゲームがしたくなりました。システムはなんだろう、ウォーハンマーFRPの日本版なんてのがあれば一番しっくり来るんだけど。戦国霊異伝はもっとキレイな感じだしなあ。時代劇の渦なんてのもあったっけ。D&D3.5のオリエンタルアドベンチャーなんかも面白そう。いや、薄汚い小悪党で遊ぶなら、サタスペの中世日本レギュレーションとか作るのが簡単かもしれないな。
 ……というわけで、ゲーマーにもお勧めします(とってつけたようなオチ)。

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))

【新版】 雑兵たちの戦場 中世の傭兵と奴隷狩り (朝日選書(777))