折れた魔剣

walkeri2005-09-27

 SF作家として名高いポール・アンダースンによる、北欧神話に題をとった本格ファンタジー。『指輪物語』と同時期に発表された本ですから結構な古典ですが、勢いのある文体でぐいぐい読ませます。
 物語は、エルフに攫われた人間スカフロクが、不倶戴天の敵どうしであるエルフとトロールの全面戦争に巻き込まれ、神々に翻弄されながらエピックな冒険を繰り広げるというもの。今ではさまざまな派生作品で手垢がついたファンタジー素材ばかりなのに、この新鮮さはなんとしたことでしょう。退屈さや冗長さはどこにもなく、人より古い種族が剣と魔法で激しく殺しあう様が生き生きと描き出されています。エルフもトロールも、白いキリストと鉄を恐れる仙境の住人であり、互いに虐殺と略奪を繰り返しているのですが、人間のような魂を持たない、善でも悪でもない彼らの姿は、現代の読者にはむしろ目新しく映るかもしれません。
 同時代の指輪物語や、後のエルリック・サーガに通じるモチーフも散見され、ファンタジー小説の歴史においても重要な位置を占める本ではないかと思います。運命の波に流される人間の英雄を描いた叙事詩に相応しく、読後感もなかなかビター。人間の勃興を前にして、神話の生き物が消えてゆく、いわばラグナロク前夜の物語であるといえます。たいへんオススメ。
 最近復刊されたこの本ですが、自分が読んだのは王子(id:emiri)が貸してくれた旧版の文庫本。深井国による挿絵がスタイリッシュかつエロくてすばらしかった。新版は表紙が違うけど、中の挿絵は残ってるのかしらん。

折れた魔剣 (ハヤカワ文庫 SF (1519))

折れた魔剣 (ハヤカワ文庫 SF (1519))