はてな夢日記:またあの家

 新宿の繁華街を歩いていた。道連れは速水さん(id:rasenjin)と、親しいらしい女性(顔の印象なし)。不動産屋に出会い、近くにとてもいい物件があるというので、見せてもらうことにした。
 不動産屋に先導されるまま、歌舞伎町の路地に入り、細い道を進んでいく。何度も角を曲がるうちに、あたりの様子が様変わりする。いつしかビルは姿を消し、道は塀に囲まれた平屋の間を通っている。農村の集落の中のようだ。歌舞伎町の奥にこんな場所があったなんて、と意外に思いながらも歩いていくと、一組のカップルを追い越す。雨も降っていないのに傘が触れ合い、軽く頭を下げて通り過ぎる。背後から何事か自分たちについてつぶやく声が聞こえる。
 唐突にぞっとする。自分はこの道を知っている。前にもここを通って恐ろしい場所に行った記憶がある。
「なんだかものすごいデジャヴを感じるんですが」僕が言うと、速水さんは硬い顔でうなずく。
 道の先に肌色をしたものが横たわっている。近づくとそれは、人間に似た裸の生き物をかたどった作り物のようだということがわかる。肌色に見えた表皮はわずかに透き通り、薄紫の筋の入ったガラスかプラスチックに見える。その頭部は人と豚を混ぜたようで、ぎょろりとした目が虚空を睨んでいる。その死体ともオブジェともつかないものの前で不動産屋は立ち止まり、狭い道の向かい側を指し示す。
「着きました。ここですよ」
 不動産屋の手の先には大きな農家の一部らしい納屋の入り口がある。暗がりの中に農業機材がいくつか見える。既視感は確信に変わっている。自分はこの家を知っている。以前この家で、何かとてつもなく恐ろしい目に遭った。記憶の中に封じ込めていたその体験が蘇りそうになる。ここにいてはいけない。
 すみません、やっぱりいいです。そんなことを口走りながらきびすを返す。不動産屋の顔が路上の物体と同じ、人と豚を混ぜたようなものに変わって僕を睨んでいたことに気づいたのは、すでに後ろを向いたあとだったが、もう一度確認する気にはなれなかった。その場を離れる僕と速水さんに、道連れの女性はついてこなかった。彼女は不動産屋の隣に立ち尽くしていた。そもそもあの女は誰だったのか。女も、不動産屋も、途中の道にいたカップルも、自分をこの家へ再び引き寄せるために仕組まれた道具立てだったのではないのか。そう思うと総毛立った。来た道を引き返しながら僕は、「こんなところまで追ってくるなんて。こんなところまで追ってくるなんて」とうわごとのように繰り返していた。
 
 この夢で目を覚ましたのが朝の4時。夢の中の恐怖が覚めやらず、布団の中でしばらくガクブルしていた。実際にはそんな家に見覚えはないし、怖い体験もしていないんだけど、そう自分を納得させるまで時間がかかった。それほどあの「呼ばれた」感は凄かった。