降臨

 かわいい娘だった。きらきらと輝く瞳、つんと生意気そうに尖った小ぶりな鼻。形のいい耳は薄桃色に上気して、つややかな唇からはきれいな歯列がのぞいていた。
 服はまとわず、白い裸身をさらしたまま、上体だけを持ち上げて僕をじっと見つめている。
 ひと月前からこの状態だ。
 裏庭に見知らぬ女の子が落ちてきてから一ヶ月。彼女はまだ落ち続けている。
 正確には、彼女の下半身が。
 手のひらにすっぽり収まるサイズの控えめな乳房と、肋骨のラインはとても魅力的だったが、その先に目をやると、僕はいつも言い知れぬ不安に襲われた。
 彼女は長かった。とても、とても長かった。
 彼女の腹部から先は、そのままの太さを保ったまま蛇のように長く延びていた。
 胸郭と腰骨の間のくびれの部分が、際限なく引き延ばされているかのようだった。
 その延びた部分が、チューブから搾り出され続ける練り歯磨きのように、うちの裏庭にとぐろを巻いて堆積しつつあった。
 降りてきてから30日を経て、積み上がった下半身の山は、すでに二階の屋根の高さを超えている。
 見上げると、永遠に続くかに思える腹部が、生き物の蝕腕のようになまめかしくうねりながら、はるかな空の高みへと消えている。
 空は一面渦を巻く雲に覆われて、彼女の下半身の行方もわからない。
 彼女の全身がすべて落ち切ることはあるのだろうか。
 それとも彼女は、何かもっと巨大なものの一部なのだろうか。
 あの先に何があるのか、それを考えるのを恐れながら、しかし無視することもできずに、僕は毎日裏庭に立ち尽くして、空から落ちてきた物言わぬ少女の視線に怯えている。



 降臨賞(http://q.hatena.ne.jp/1231366704)に応募しそびれたもの。面白い企画だったので、乗り遅れて残念也。