アフリカのエイズ禍を拡大するある性習慣と、大衆居酒屋のデザイン・テロリストについて

 この間、近所の有名な居酒屋チェーン店に行ったときのことなんですけどね。席についてテーブルをみると、一面に英字新聞がいっぱい印刷されてるこじゃれたデザインで。何気なく自分の前の記事を読んだらこう書いてある。
Kenyan Women Reject Sex 'Cleanser'
 一緒に掲載されている大きな写真では、なんだかニタニタした黒人男性を、黒人女性が、あっち行けとばかりに押しやっている。なんだろうこれはと思って読み進んでみると、以下のような内容でありました。(※注意――以下、とても長い&翻訳が拙い&内容がえげつない(性的な意味で)

ケニアの女性は性的「浄化者」を拒絶する」

未亡人への伝統的な要求は、HIV-AIDSの感染を拡大するとして非難されている

by Emily Wax ("Washington Post," August 18, 2003)

GANGRE、ケニア ―― この村の女性は、Francise Akachaを「テロリスト」と呼びます。 彼の息は地元の醸造酒の臭いがします。口髭からは油っこい食べ物のカスが滴り落ち、油じみたズボンと破れたシャツに染みを作ります。
 村の祝宴では、彼はいつも列の先頭に並び、女性たちによって注意深く用意されたご馳走に向かって、海にでも飛び込むかのように遠慮なく突っ込んでいきます。彼は痩せ過ぎで、女性たちが指摘するように、服の趣味もひどいものです。彼の最新の帽子は、地方のタバコの看板から盗んだみすぼらしい紙で作られたバイザーです。
 しかし、望ましくないすべての特性にも関わらず、Akachaには、驚くほど望ましい仕事があります。彼は、この村の未亡人ならびに未婚の女性と性的な関係を持ち、代価を受け取っているのです。彼は「浄化者」として知られる、アフリカ中の農村に住む何十万人もの男の一人です。その仕事は、夫を亡くした女性と寝て、村人たちが悪霊と信じているものを祓うことです。
 伝統の定めるところでは、未亡人は、夫の葬儀に出席するのを許されるために浄化者と寝なければなりません。夫の兄弟か親類によって身請けされるときにも同様です(これもまた、HIV-AIDSの感染拡大を引き起こしているとして、支援スタッフの論議を呼んだ習慣です)。 親や子供を失った未婚の女性もまた、儀式的浄化者と寝なければなりません。
 この習慣は、女性には常に不人気でした。しかし、AIDSによってサハラ以南アフリカだけで1960万人が死亡するほどの広地域的流行の渦中では、浄化者との肉体関係は、女性が耐え忍ばなくてはならない苦痛な儀式という範疇を超えています。今や浄化者は、Gangreのような村において、爆発的な速度でHIVを広げています。そこでは3人に1人が感染しています。
 最も感染率が高いのは、まだ伝統に従っている地域です。医療保健業務従事者は、この習慣を止めなければならないと言います。疫病が大陸中を席巻する状況で、HIV-AIDSがいかにしてアフリカ人に伝統への疑問を突きつけ、変化を迫るか――これはその衝撃的な一例です。
「私たちは浄化者を求めていないし、これ以上受け容れるつもりもありません」Margaret Auma Odhiamboは、彼女の村(首都ナイロビから北西に自動車で9時間の、豊かな農耕共同体)の合議で泣き叫んでいたのと同じ文句を唱えました。「私は一度拒否しました。そして、拒否し続けるつもりです」
 20年前には、女性が「浄化」のような習慣に疑問を唱えることはなかなかできませんでした。彼女たちが商品販売プロジェクトを立ち上げるための社交クラブを結成したときにさえそうでした。殴られたり、財産を盗まれたりすることを恐れたためです。
 しかし、HIV-AIDSが、夫たちを大量に殺し始めたとき、これらの女性団体(主として社会的な連帯で、余分なお金を稼ぐ手段ともなる)は、強力かつ政治的な未亡人のグループへと変化し始めました。夫たちが死んだ後に、残された多くの未亡人たちが、村にお金を稼ぎ、食料も資金援助もなしで残された増え続ける孤児たちに手を差し伸べるようになったからです。
 Odhiamboの村では、30%の女性が、浄化者に去るように伝えたと言いました。彼女たちはStanding Idle Does Not Pay、またはスワヒリ語でChungni Kimiyiと呼ばれるグループを結成しました。周囲の村々の女性たちが唱えるマントラになった句です。彼女たちは、浄化者が去ることを望んでいます。
 浄化者はふつう、村の大酒飲みか、それほど賢くないと考えられた者です。この仕事は下等なものとみなされていますが、女性の「浄化」は不可欠です。村の長老は、浄化は実行されなければならない、さもなければ、共同体全体が不作で呪われると言います。浄化の代価は、牛、作物、および現金で支払われます。
 Odhiamboは最近、彼女のグループと共に立ち上がりました。彼女は巻き毛の黒い髪と輝くような黒い皮膚をもつ、人好きのする女性です。彼女たちが作った魚、野菜、トウモロコシのご馳走の暖かい匂いが村中に漂います。
 夜明けのように予想通り、浄化者Akachaが飛び出してきました。手には地酒の瓶が握られています。
 浄化者がいくらか食べ物を取るのを見てから、Odhiamboは、別口の仕事を見つけるようにと彼に話し始めました。
 友人たちが応援に集まってくる中、「あなたの仕事はもう必要ありません」と彼女は言いました。
 彼から情報を引き出そうと、彼女は微笑んで尋ねました。「あなたは何人の女性と寝ましたか?」
「知らないな」彼は鼻を鳴らしました。「知りたいと思わんね」
「自分のHIVの病状を知っていますか?」
「それも知りたくないね」と彼は言いました。
「今日誰かと寝て、明日は別の誰か、その次の日はまた他の誰か」彼の隣に座り、危険を納得させようと、Odhiamboは言いました。「コンドームは使っていますか?」
「まさか」彼は応じました。「コンドームを使ったら本当に浄化はできないよ」
 しかし、村人がどんどん死んでいるので、Akachaはやむを得ず問題に向き合わざるを得なくなりました。それでもAkachaは、彼が貴重なサービスを提供すると信じていると言います。
「きれいな女といられるから、俺にとっては悪くないね」彼は皿の上で忍び笑いします。「女たちも喜んでるよ、だって他の誰があいつらを引き受けてくれる? 一人だけで精霊と一緒にいることはできない。あいつらには俺が必要なんだ」
 問題が無視できないものになったため、現在、村の長老たちはこの習慣をどうするかについて討論しています。 その一方で、医療従事者と人権活動家たちは、HIVの蔓延する世界では、このようなサービスはまったく必要とされていないと主張します。
「この習慣は止めなければなりません」ヒューマン・ライツ・ウオッチの次長Janet Walshはそう言います。ヒューマン・ライツ・ウオッチは、3月にこの問題に関するレポートを発表しました。「コンドームは決して使用されません。彼らは、肌と肌が触れ合っていないと効果がないと言うのです」
 アフリカでは、女性のHIV感染率は男性の6倍です。浄化のような慣習とレイプのせいで、たった一人の男性が、数百人の女性に疾病を感染させることができるのです。
 コンゴだけではなく、ウガンダタンザニアの一部地域でも浄化者を見つけることができます。そこでは伝統的な宗教がキリスト教イスラームの分派と共存しています。浄化者によるHIV感染の危険性について現地の人々に話そうとしたアフリカ人の支援スタッフによると、アンゴラの大部分、西アフリカ一帯の村々(特にガーナ、セネガル、コートディヴォアール、およびナイジェリア)においても同様です。
 この伝統の由来は何世紀も前にさかのぼり、夫に死なれた女性が精霊にとり憑かれるという考えに基づいています。未亡人が結婚もせず、セックスをしないままでいると、不浄かつ「錯乱している」と見なされます。したがって、葬儀に出席するか、または再婚するために、彼女を浄化しなければなりません。
「古い世代は変化する必要があります」この地域でAIDSによる未亡人グループや孤児たちと共に働いている、アフリカ医学研究財団(AMREF)の看護師、Nancy Ounddaはそう言います。「教育を受け、伝統がいったい何をしてきたのか気付くことで、彼らの態度は変わるでしょう」
 女性たちが自活するため、市場にレンガを運んで稼ぐことができるように、財団はロバ、鍬、荷車、および材料を寄贈しました。浄化者を拒否し、財産と一緒に身請けされることを避けるためにも、自活は鍵となります。また、未亡人と村の長老たちを相手にHIVセミナーを開いて、浄化などの伝統を捨てるようリーダーたちを促しています。未亡人たちから重荷を取り除くために、300人の孤児の授業料も支払っています。
 未亡人たちは、教育が今までのところ機能していると言います。そして、ノーと言うことができるということを知るだけでも、非常に気が楽になったと報告しています。
「男たちに悩まされなくなったので、私は、とても太って幸せです!」と、Tabitha Anyango Oderoは言います。彼女は未亡人で、浄化と身請けを求める圧力をかけられながらも、AIDSで死にたくないと抵抗し続けていたのです。「今の私の家がどれだけきれいか、今の私がどんなに健康かを見てください。私は未亡人のグループを愛してます」
 先日の午後、Odhiamboは、女性たちと集まって、浄化と身請けの拒否についての寸劇を発表しました。劇中では、男性が憂慮すべき速度で妻たちにHIV-AIDSを広める原因となっている一夫多妻についても疑問が投げかけられました。
 寸劇では、AIDSの余病で夫を失ったある女性が、男性がHIV検査を受けるまで、浄化も身請けも拒否します。
「私は水のように清潔だ」と浄化者が言います。
 聴衆は爆笑しました。
「それなら、検査を受けてください」と女性は返します。
 しかし最後には、村の長老が、彼女の浄化と身請けを強制します。そして、彼女もAIDSの余病で死にます。
HIVは全世界を震撼させています」という台詞で、劇は幕を閉じます。
 大きな樹の下に用意された椅子に座った聴衆の男性たちは、笑って拍手し、同意を示してかぶりを振りました。
「少しずつでも、我々は変化しなければならない」グレーの三つ揃いと麦藁帽子を身につけた、62歳のDalmas Onganは、劇が気に入ったと言います。「以前は、我々は伝統のために死ぬと言っていた。私ですら、浄化は善だと言っていた。しかし、この態度は誰の助けにもならないと思う。これを止めなければ、我々はみな、死ぬかもしれない」

 ここで思い出してほしいのですが、この記事が印刷されていたのは「飲み屋のテーブルの表面」です。しかも、英字新聞が重なり合っているデザインなのに、見出しと写真のみならず、記事の冒頭部分が妙に読みやすく配置されている。意図的なものを感じます。
 さらに周囲に目を移すと、他の記事も「US Troops Killなんたら」とか、「Discent Into Darkness」(北米の大停電についての特集記事)とか、妙にダークなものばかり。確定です。判っててやってやがります。
 人々が憂さを晴らしに来る大衆居酒屋のテーブルを発注されたのに、わざわざこんな記事ばかり選んで、一見こじゃれた感じに仕上げたデザイナー。誰もこんなの読みゃしねえよと思っていたのか、その根性嫌いじゃないぜ。たぶんタイラー・ダーデンのスペース・モンキーズの一員だと思われます。デザイン・テロリストとでもいいましょうか。個人的には応援したいので、店名を公表するのは差し控えます。