黒い海岸の女王
長らく入手困難だったコナンが復刊ということで、喜んで買ってきた。行動原理が単純で、話がワンパターンという批判もあって、ちょっと危惧してたんだけど、実際に読んでみるとちゃんと楽しめた。特に、ただの蛮人ではなく「文明社会の中の蛮人」という側面が描写されてるのが面白かった。
未開の地キンメリアから来たコナンは、文明社会の中では、しばしば蛮族として蔑まれる。また出自とは関係なく、平民を虐げることを当然と考える都市の権力者によって、人を人とも思わないような扱いをされることもある。
無礼な扱いを受けると、コナンはまず戸惑う。彼の育った社会では、無礼者は即ぶっ殺されるので、みんな口には気をつける。しかし法によって暴力から守られていると思っている都市住民は、平気でコナンを罵倒する。コナンにはそれが理解できない。なんでわざわざ自分の命を縮めるような真似をするんだと不思議に思いつつも、頭蓋骨に鋼の一撃をお見舞いする。殺すと思ったときには殺している。相手が貧乏人だろうと、金持ちだろうと、平民だろうと権力者だろうと、コナンに対しては何の意味を持たない。彼の前ではみな等しく人間であり、罵言の報いは受けなければならないのだ。
そしてコナンは愚か者ではない。都市の中で権力者を殺すことがいかなる結果を生むか、彼は重々承知している。だから彼は逃げる。殺しの後は馬に飛び乗って一目散に逃亡する。すっきりした行動原理でとてもよい。
読みながら、わかりやすくRPGでバーバリアンが遊びたくなった。ゲームの中で、PCが兵士や役人を殺したりするのは、たいていの場合露悪的な色合いを帯びるものだけど、コナンの殺しには一切のケレンがない。カタコトのロールプレイや、テクノロジーへの不信といった演出よりもはるかに雄弁に、行動がその出自を物語る。バーバリアンかくあるべしだ。
白人の夢想の中から産声を上げた、残虐さと高貴さを併せ持つ、白い肌の野蛮人。表紙の貴乃花はいったい誰なんだろう。
- 作者: ロバート・E・ハワード,宇野利泰,中村融
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/10/24
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (31件) を見る