アムネジア

アムネジア

アムネジア

 思緒雄二の『顔のない村』や『送り雛は瑠璃色の』などを思い起こさせる小説だった。見えないところで何か不気味な、もの悲しいことが進行しているという感覚と、語り手の記憶が信頼できなくなる状況がよく似ている。正直、一読しただけで評価することは躊躇われる。これもまた、何層にも重なり合った構造を持つ「油断ならない」小説の類である。分析は他の人に任せておこうと思うが、ただ読んでいるだけでも、物語がゆっくりと昏迷に陥ってゆく不安な感覚は楽しむことができた。個人的にはむしろ著者への興味が強くなったので、『アクアリウムの夜』と、ノンフィクション方面の著作も探してみようと思う。