自衛隊指揮官

自衛隊指揮官 (講談社+α文庫)

自衛隊指揮官 (講談社+α文庫)

 有事に際した自衛隊指揮官の行動を、幾つかの事例を通して描き出すノンフィクション。著者自身防衛大を卒業してからジャーナリストになった経歴を持っており、本人が認めている通り、完全に客観的な視点で書いているわけではない。ノンフィクションというより、むしろフィールドワークの記録に近いか。
 取り上げられた事例は地下鉄サリン事件、不審船追跡事件、ミグ25亡命事件、12・9警告射撃事件の四つ。それに9・11後の現状についての考察が加わって、五部構成になっている。知らなかったことも多く、面白く読んだ。中でも、不審船追跡の際に取られた初めての海上警備行動が多分に偶然が積み重なった結果であったこと(当時は陰謀論も囁かれていた)と、ミグ25の機体を地上で防衛する任務についていた陸自の活動にスポットを当てている点に強く興味を惹かれた。
 有形無形の鎖に縛られた自衛隊という組織において、現場の指揮官は常に困難な選択を迫られる。敵を殺してはならず、部下を殺してはならず、それでいて任務は成功させなければならない。自衛隊という軍隊ならぬ軍隊に属する、個々の自衛官の置かれた状況のいびつさを直視すべしと著者は語る。自衛隊を無視するのは、現実を見ようとしないのと同じである、と。短い中でさまざまな問題を提起しており、多くの人に読まれるべき良書といえる。おすすめ。