老ヴォールの惑星

 今まで小川一水といえば土木SF、技術者SFというイメージでしたが、今回の短編集で認識を改めました。
 広大な迷宮に投獄された男の苦闘と、それに伴う迷宮の変貌を描く『ギャルナフカの迷宮』。超音速の風が吹き荒れる巨大ガス惑星の表面をプラズマジェットで駆け回る異星生物たちが、惑星規模の大災害に立ち向かう『老ヴォールの惑星』。木星を汲み尽くさんとする地球外起源の採掘機械群を停止させるために、製造者たるETIとコンタクトしようとする『幸せになる箱庭』。広大な海洋惑星にただ一人不時着したパイロットが、島影一つ見えない大海原をどこまでも漂流する『漂った男』。いずれもワンアイデアを見事に結実させた短編ばかりで、わくわくしながら読みました。
 収録された四篇には、「自分の意思ではどうにもならない困難な環境に追い込まれた人物が、その中でなお生きる意味を探求する」というテーマが通底しており、強烈に感情移入させてくれます。意表を衝かれたのはやっぱり『漂った男』でしょうか。一見するとSF版『オープン・ウォーター』とでも言えそうなシチュエーションなんですが、漂流ものという言葉から想像されるような展開はほとんど起こらないんですよ。
 いやあ、面白かった。これは広く読まれていい本ですよ。もともとSF好きな人にも、普段SF読まない人にも、自信をもってお勧めできます。