アンゲーム

 昨日遊んできた。ボードゲームとカード版があって、今回遊んだのはカード版。時間を一回15分と決めて、カップル版とティーン版の二種類をやってみた。ルールは簡単で、山札から順番にカードを一枚取って、その指示に従う。カードには二種類あって、一つは設問。例えばこんなことが書いてある。

 あなたが一番孤独を感じるのはどんなときですか?

 あなたの思う自分はどんなイメージか教えてください。

 次の文章の空白を埋めてください。
「私が周りから大事にされていると感じるのは、○○されたときです」

 カードを引いた人は、カードに書かれたテーマについて何か発言する。どれだけ喋らなければならないという決まりはない。ただし、重要なルールが一つあって、このゲームでは、カードを引いた人以外は喋ってはいけない。もう一種類のカードである質問カードを引いてくれば、初めて他人の発言に対してコメントしたり、質問することができる。
 これだけ。ボード版はもうちょっと仕掛けがあるらしいが、カード版は実にシンプルだ。勝敗もないし、アンゲームという名前の通り、ゲームらしいゲームとはいえない。ところがこれが面白かった。
 ゲームの説明を聞くと、喋るのが苦手な人は尻込みするかもしれない。しかし実はこのゲーム、普段あまり喋らない人ほど面白い仕組みになっている。ポイントは「カードを引いた人以外は喋ってはいけない」というルールだ。自分がそうだから言うのだが、喋るのが苦手な人というのは、決して喋るという行為自体が嫌いなわけではない。そうではなくて、自分の思考を短い時間で言葉にするのが苦手なのだ。会話ともなると、相手の思考のスピードに振り回されて、余計に口が重くなる。だから誰かよく喋る人が他にいる場合、喋るのが苦手な人は、会話の主導権を握ろうとはせず、もっぱら聞き役にまわることになる。日常生活では、基本的にこの構図が変わることはない。
 しかし、アンゲームはこの不均等な構図を平らにならしてしまう。一人がカードを引いたら、その人が自分の中から言葉を見つけ、口に出し、言い終えるまで、他の人は口を出すことができない。思考を言葉にするまでに時間がかかったとしても責められることはないし、途中で誰かに突っ込まれることもない。発言の内容について矢継ぎ早に詰問されることもない。考えてみると、他人を目の前にして、自分のペースで言葉を発する機会というのはそうそうあるものではなく、普段あまり喋らない人にとってはそれ自体が新鮮な体験になるだろう。
 遊んでみて気付いたのは、自分が意外に喋りたがっていたということだ。なるほど、普段の生活の中で呑み込んだ言葉は、消えることなく溜まっていくのだなあ。と思ったさ。思ったとも。なあ。
 なお、カードは1と2の二つの山に分かれて入っている。例に挙げたカードは2のもので、人の内面に踏み込むような質問や、シリアスな問題を扱ったカードが入っている。それに比べて、1は比較的当たり障りのないカードで構成されていて、パーティーゲームとして遊ぶ際や、大勢で遊ぶ場合にはこちらを使ったほうがいいかもしれない。まあ、もちろん2で遊んだんだけどな! 確かに参加者間の理解は深まったかも。簡単なルールの割に面白いので、見つけたら是非一度遊んでみることをお勧めする。
 ちなみにこのゲーム、心理療法の分野から生まれた商品で、ちょっと前に話題になった箱庭療法のセットと同じ会社が販売している。箱に入ってたインストのイラストがお友達パ先生の絵だったので不意をつかれてびっくりした。