ヒーザーン ISBN:4150109761

 再読。ジャック・ウォマックの殺伐ディストピア小説ロングアイランドでの内戦が続くニューヨークを舞台に、巨大企業ドライコ社の重役であるユダヤ人女性ジョアナを主人公として描かれる、架空の1998年アメリカの物語です。初めて読んだときには強烈な印象を受けながらも何がなんだかわからないまま終わってしまったのだけれど、数年を隔てて改めて読んでみると、おや、わかるわかる。こういう話だったのね。
 苛烈な暴力描写と「ポスト文学」はやっぱり魅力的。この話では日本が重要な要素として出てくるけど、サイバーパンク的な80年代の強い日本のイメージで、ちょっと懐かしくもあります。
 ウォマックといえば暴力なんだけど、直接的、肉体的な暴力もさることながら、間接的、精神的な暴力についても目が行き届いていることに、今回読み返して気づきました。そこら中に死が蔓延している世界の中で、実は主人公ジョアナに直接肉体的な脅威が及ぶことはない。ジョアナが苦しんでいる原因は、ドライコの支配者であるドライデン夫妻の強大な権力による威圧、暴力の気配(暴力のプレゼンス効果というか、要するに恐怖を支配の手段に使うという意味でのテロリズム)、他人に対して振るわれる暴力、あるいは過去に振るわれた暴力、そしてそれらを含めた、ドライコ(に代表される悪)が行使する様々な暴力に加担しているという罪悪感なんですね。むしろそっちの方を重視している気がします。
 これと『テラプレーン』しか翻訳されてないので、そろそろ原書に手を出すかなあ。難しそうだけど。
 あと、日本版のカバーイラストは好きなんだけど、原書のこの表紙はあんまりだ……。
 ■参考