魔王子シリーズ

 長らく積読のままだったジャック・ヴァンスの魔王子シリーズを全部読みました。面白かったー。「魔王子」と呼ばれ恐れられる大犯罪者、すなわち災厄のアトル・マラゲート、「殺戮機械」ココル・ヘックス、ヴィオーレ・ファルーシ、レンズ・ラルク、ハワード・アラン・トリーソングの5人に故郷を滅ぼされた男カース・ガーセンを主人公とした復讐譚……と見せかけて、実はガーセンを狂言回しに据えて、悪漢である魔王子たちの所業を描くピカレスク・ロマンというべきかもしれません。ガーセンは頑張ってるんだけど、読んでる人はだんだん魔王子が可哀想になってくるという。せっかくこんなに楽しく悪事を働いてるのに、いきなり出てきてそれを邪魔するなんて、ガーセンという男はなんてひどいやつだ、と。いやまったくその通りで、特に5巻、「夢幻の書」をめぐるガーセンの行動は本当にひどい、ひどすぎる。うわーやめろー、もうやめてくれー、と心の中で叫びながら読みましたね。だいたい魔王子にはオタクが多すぎる気が……。モテないあまりにクラスで一番きれいな子を拉致して出奔しようとした人はいるわ、ながいけんの「シミュレーションマシーン」と魔太郎を足したような人はいるわ。魔王子たちはそれぞれにコンプレックスを抱えていて共感も呼びやすいので、その辺がガーセンよりも肩入れされる理由でしょう。
 異境作家と言われるヴァンスだけあって、エキゾチックな情景描写も見どころです。特に4巻の舞台となる砂漠の惑星ダー・サイの文化は非常にユニークなもので感嘆。ヴァンスって、言葉の使い方が絶妙なんですけど、翻訳もほんのちょっと違和感のある単語を選んでいて、その微妙な異化作用がちょうどいい感じでした。
 さて、これで残るは『終末期の赤い地球』と『冒険の惑星』シリーズだ。SFマガジンに載った短編も結構あるみたいだけど、まとめてくれないかなあ。ハヤカワ以外だと久保書店の『太陽系の危機』に入ってる「宇宙の植物人間」か。ヴァンススレ(キャッシュ)によるとカードの『第七の封印』と『反逆の星』がバッタもんヴァンスとして楽しめるそうなので憶えておこう。『魔界の盗賊』は買ってたな。読まねばー。