時代と人間 ISBN:4198618259

walkeri2004-02-24

 堀田善衞の名前を知ったのは宮崎駿の著作を通してだった。司馬遼太郎・堀田善衞・宮崎駿の対談『時代の風音』がそうだし、エッセイ集『出発点 1979〜1996』にも触れられていたはずだ。あの気難しい宮崎駿が随分と尊敬している様子が伝わってきて、へえと思った。どうもたいへんな人物らしいぞ、と興味を持って本を探してみたが全然見当たらないので、気にかかりつつも、古本屋を当たるしかないかと諦めていた。
 で、この前本屋で三冊も復刊されているのを見つけて驚いた次第。しかも奥付を見たら、この復刊、スタジオジブリの企画じゃござんせんか。面白いことするなあ、と思って早速一冊買ってみました。千と千尋の赤くないやつを出してくれたらもっと嬉しいんだがまあいいや。
 さて、この本では、鴨長明藤原定家、法王ボニファティウス八世、モンテーニュゴヤという5人の傑出した人物の紹介を通して、現在と分断されたものとしての歴史ではなく、現在と重なり合った歴史を捉える視点を提示しています。NHK人間大学で放送された講義をまとめたものらしく、軽くて読みやすいとはいえ、内容は濃いです。中でも興味深かったのは冒頭の鴨長明かな。ゆく河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず、で有名な鴨長明の『方丈記』が、実は無常観とは縁遠い、記録者としての冷静な目に裏付けられた一種の記録文学であるとか、方丈というタイトルからも判るとおりこれは住居論であり、建築論は多いが住居論というのはかなり珍しい、とか。鴨長明の生きた時代はものすごい死者を出した乱世の真っ只中で、その中で彼が何を見て、どうやって生きたかというのも面白かったです。モンテーニュもすごかったですね。ルネサンス時代の人なんだけど、とても当時のヨーロッパ人とは思えないほど「現代的」な考え方をする人でびっくり。こんな人がいたんだ……。
 著者が繰り返し言うのは、歴史は過去に置き去りにしてきたものではなく、現在と不可分に重なり合っている(繋がっている、ではないことに注意)のだ、ということです。最近になって新しく出てきたと思われているような物事、概念(たとえば言論の自由とか、相対的価値観とか)も、実はかつて起こったことである。歴史は繰り返さない、人が繰り返すのだ。現代の事象には、過去の事象が分け難く投影されている、と。確かにここで示されている歴史観に触れると、過去→現在→未来という線形の歴史観は随分と貧しいものに思えます。うーんやっぱり歴史は学ばないといかんなあ。そいで歴史ってのは要するに人なのだなあ、とか思ったことでした。