鳥―デュ・モーリア傑作選 ISBN:4488206026

 ヒッチコックの映画の原作でもある表題作をはじめ、八篇を収録した短編集。いや、これすごいですわ。一篇として退屈な話がない。どれもこれも読み始めるとラストまで一気です。扱ってる題材は暗くて地味で、終始読者を不安に陥れるような話ばかりなのに、筆致がドライなせいもあってか、そんなに後味は悪くないです。ひねった結末が多いので、ああ面白いもん読んだなあという感じ。とはいえどこをとっても作者のひねくれっぷりがにじみ出てるので、解説で紹介されてる「女怪」という作者の形容は的確だなあと笑ってしまいます(あ、女性作家です)。いやはや、すごいストーリーテラーがいたもんだ。
 一番気に入ったのはトリを飾る「動機」。まったく動機が見当たらない自殺の謎を追うホワイダニットで、私立探偵を主役にテンポよく進んでいく物語が、隠された真実へと収束(まさにこの言葉が相応しい展開)していくのが非常に読ませる、ほろ苦い一篇でした(まあそれを言ったらこの本、苦くない作品がないんですが)。それと、お話の面白さという点では一歩譲りますが、「鳥」の破滅SFっぷりはやはりたまりません。いやあやっぱり破滅SFはイギリスに限るね。カモメとカラスの群れが交錯するシーンのコントラストが鮮やかで好きです。
 なお、読む気になったきっかけは「見下げ果てた日々の企て」の評でした。