アベコベガエルがなぜアベコベなのか解ってしまったかもしれない

 数日前にこんな記事を読んだ。
 ◆タコ?イカ?カエル?クラゲ?コロンビアで発見された謎の生物(画像あり)

両生類とクラゲの中間のような外見のこの魚が、先週の木曜日にある漁師のネットにひっかかっていたという。
この”謎の生物”は体長は35センチメートル以上あり、奇妙な形をしたで丸い頭がある。また、透明な体色をしており、カエルのような足が生えている。

 カエルのような足っていうか、どう見てもアベコベガエルです。本当に(ryというのは既に各所で指摘されていることだが、しばらく記事を眺めているうちに二つの疑問が湧いてきた。

  1. 35cmというのは大きすぎないか。
  2. カリブで漁網に引っかかったということは、海に生息しているのか。

 まず誤訳の可能性を考えた。元記事スペイン語なので読めないが、"35 centimetros"と書かれているのは判る。機械翻訳にもかけてみた。"The specimen doesn't measure more than 35 centimeters"って、doesn'tじゃん! 「以上」じゃなくて「未満」だよ。とはいえ、写真を見て、持っている手と比較すると、確かに30cmぐらいはありそうだ。
 アベコベガエル(Pseudis paradoxa)は、成体のカエルよりも幼体のオタマジャクシの方が大きいことで知られている。その理由は判っていない。あちこち調べてみると、幼体の大きさはだいたい20cm、最大でも25cmが定説になっているようだ。中には7.5cmとか16cmという資料もあった。いずれにしても、30cm超はアベコベガエルの中でも破格の大きさと言える。
 では、カエルは海に生息できるのか。通常、両生類は海に入ると浸透圧で水分を失って死んでしまう。ただしカニクイガエルなど、例外的に汽水域に棲む種類も知られているらしい。そのものズバリ、カエルの塩水に対する耐性について述べた論文"Geographic Variation for Salt Water Tolerance in the Frog Rana sphenocephala"も見つかった。

フロリダの強塩性環境のナンブヒョウガエル(Rana sphenocephala)の成体は、弱塩性環境の同種の個体よりも、希薄な海水に対する許容性が高い。この塩水への耐性増加は、強塩性環境のカエルの、蒸発散速度の減少の結果と思われる。蒸発散速度の減少は、おそらく、カエルと環境の間の浸透圧勾配を減少させる効果を持つ高密度の原形質と、体の大きさの増加によるものであろう。これは体内の水に比較した表面積を小さくすると同時に、皮膚を厚くして透過性を減少させるという二重の効果を発揮する。蒸発散速度の減少は、絶えず塩分濃度の変動するフロリダ塩湿地に生息するカエルにとっての適応型であると考えられる。

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     i!iYi!i.   | な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
    rァ゚A゚;).< 訳するほうはもっと大変だった…
 要するに、両生類でもがんばって大型化して、水分の流出をなるべく少なくすれば、塩水に適応できるらしい。ここで元記事の英訳に戻ると、今回の個体が発見されたのは"lagoon"(潟)、"marsh"(湿地)とあるから、海のど真ん中ではなく、海水の流れ込む強塩性の湿地帯のようだ。
 これらの調査結果から、以下の仮説を立てることはできないだろうか。

  • 強塩性の環境に適応しようとする両生類は、環境の塩分濃度が高いほど大型化する。
  • アベコベガエルの幼体の大きな体は、同じ塩湿地の中でも競合種の少ない、より海に近い(塩分濃度の高い)環境に適応するために発達したものである。
  • エラ呼吸のオタマジャクシは、成体のカエルに比べて、塩水への脆弱性が高い。逆に言うと、アベコベガエルの成体は、オタマジャクシの時期ほど大きな体を持つ必要がない。これがアベコベガエルが成長して「縮む」理由である。
  • アベコベガエルの幼体の大きさが、環境の塩分濃度に比例するとするなら、生息地が内陸になるほど小型化するだろう。今回発見された個体は、漁師の網にかかるほど海の近くに生息していた。30cm超というサイズはその環境によるものである。

 さらに妄想を広げるなら……

  • より塩分濃度の高い汽水域には、より強く海水に適応した未知の大型両生類が存在する可能性がある。

 トレマトサウルス科(参照1参照2参照3)という前例もあることだし、完全な海棲両生類の存在も、あながち夢物語ではないかもしれない。



※補足