蜂の巣にキス

 久々のジョナサン・キャロル。この人の作品世界は、前半はほんとうに魅力的で、体温を感じそうなほどあたたかくて、ずっとこの人たちの中で暮らしていたいと思わされるんだけど、後半で必ずとんでもない悪夢に叩き込まれて悶え苦しむことになるので、読むのが楽しみであると同時にとても恐ろしいのです。今回もそれは変わらず、うわーいやだいやだ読み進めたくない、だけどなんだかちょうきもちいい。と呻吟しながら絶望的なクライマックスへとずるずる引きずっていかれるのでした。
 ただし今回はミステリなので、いつものはっちゃけたダークファンタジー展開を期待すると肩透かしかも。つい既読の作品を読み返したくなりました。この人の小説を読むとウィーンに行きたくなるんだけど、一歩足を踏み入れたが最後、死ぬよりもひどい運命が手に手を取ってやって来そうなのでおっかねえです。
 それにしてもいつにもましてタイトルが素晴らしいよね! 『蜂の巣にキス』。Kissing the Beehive。カバーアートもレイアウトもとてもいい。額に入れて飾っておきたいくらい好き。
 ヴェロニカがたいへんカワイスなんだけど、ものすごい勢いで色々踏み外しまくっているのが不憫でなりません。空回りっぷりが他人とは思えない。いや、さすがにあそこまで空回っちゃいないと思う……けど……。しかし、ああ、自分はまた「やっちゃった」のか、と気付く瞬間の恐ろしさよ! かわいそうだよう。