ブログ文章術<一文を短くって言うけどさ>
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各所で盛り上がってる、文章を短くするやつ。
お皿ひとつひとつに、それぞれ、ハムや卵や、パセリや、キャベツ、ほうれんそう、お台所に残って在るもの一切合切、いろとりどりに、美しく配合させて、手際よく並べて出すのであって、手数は要らず、経済的だし、ちっとも、おいしくはないけれども、でも食卓は、ずいぶん賑やかに華麗になって、何だか、たいへん贅沢な御馳走のように見えるのだ。
これをセンテンスに区切って読みやすくしよう、というのが課題。自分ではやらないつもりだったんだけど、COCOさんがスティーブン・キング風に書いてたのを見て触発されました。
センテンスが短いといえばあの人。
獏だよ。
さら、さら、さら、さら――
一面の皿であった。
白い皿。
茶色い皿。
小さい皿。
大きい皿。
食卓の上は、くまなく皿に覆い尽くされていた。
よく磨かれた食卓の表面が、ほとんど見えないほどだった。
どの皿も、無骨で、分厚く、いびつである。
不器用な手が作った皿であった。
だが、同時に――
どこか人をひきつける皿でもある。
不器用だが――
あたたかいのだ。
作った者の手のぬくもりと、まごころを感じさせる皿ばかりであった。
無造作にかけられた釉薬の跡に、たまらぬ味わいがあった。
その、皿の上に――
食い物があった。
いろとりどりの食い物が、皿の上に盛られているのだ。
ハム。
卵。
パセリ。
キャベツ。
ほうれんそう。
一枚の皿に、一種類ずつ――
台所にあるものを、一切合切出してきたようだった。
「――うまそうだなあ」
しみじみと言った。
美しい。
そう思った。
「――うまいものかよ」
「なに!?」
「こんなことをするのは、経済だからよ」
「経済!?」
ぞくり、と背筋に震えが走った。
「経済とは――どういうことだ」
「知れたことよ」
酷薄な笑みが、男の唇に浮かんだ。
「こんなもんは残り物だ。誰も好きこのんで食いやしねえ」
だが――
「こうしてこぎれいに配合して、手際よく並べてやれば、どうだい」
「食卓が、賑やかで、華麗になって――」
「そうよ。手数もぜんぜんかからねえ」
「贅沢なご馳走のように見えるが――違うのか」
「違う」
「――――」
「実際食ってみるとな――」
にたり、と男はすごい笑みを見せた。
「ちっともおいしくなんかねえんだよ」
「な――」
なんという――
なんという、えげつないやり方なのか。
物を食う楽しみを犠牲にしてまで――
経済という、たった一つの目的のために、そこまでやるというのか。
そう思って、男の顔を見たとき、不意に気づいた。
笑っているのではない。
哭いているのだ。
まるで笑っているかのように顔をゆがめて、声も出さずに――
男は哭いているのだった。
――ああ。
すまん。
すまん。
俺が悪かった。
誰だって、うまいものが食えれば、食うに決まっている。
そのうまいものが食えないから、わざわざこんなことをするのだ。
まともな食い物がない――
その哀しみを、経済という言葉で覆い隠して、男は哭いているのだった。
「おい――」
無理矢理に、声を絞り出した。
「行こう」
「どこへだい」
「どこだっていい」
なかば意識せずに、口走っていた。
「飯を食おう」
「飯なら、ここに――」
「気にするな」
「だが、金が――」
「気にするな」
男の肩に手を回して、戸口をくぐる。
「俺のおごりだ」
「いいのか」
「いいとも」
「では、ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。
桜の香る風が、小田原の夜を渡っていった。
ほんとは長い文章も好きなんだけどな。石川淳とか。