驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!

 「さて次の企画は」(id:otokinoki:20050927)と「第弐齋藤 土踏まず日記」で知った本。すらすら読めるのになかなか読み終わらないなー、と思ってよく見たら、結構分厚いことに気がついた。『啓示空間』の直後だもんで感覚が麻痺していたみたいだ。しかしこの本のテーマに比べたら、啓示空間の厚さなんて何ほどのこともない。というのも、これは、ブリタニカ百科事典をAからZまで通読するという試みを実行に移した男の物語なのだ。
 百科事典を読むなんてのは、言うは易しくおこなうは難しの典型だ。百科事典といえども本なのだから、読み続けていればいつかは終わりにたどり着く。しかし、「床に全巻積み上げると乳首の高さにまで達する」ほどの大著の、全ての項目を読み通すのは、それ自体が一つのクエストだ。しかも、全巻読んだからといって、それが何になるのか。確かに知識は身につくかもしれない。しかし、それで賢くなったといえるのか? どうだろう? 事典を頭から読むというのは、普通、勉強の方法としてはかなり効率の悪い、愚かなことだと言われるんじゃないだろうか? たとえ最後まで読み終えたとしても、頭の中に雑多なトリビア(=ムダ知識)が残るだけで、結局何も変わらないんじゃないだろうか?
 ……などと考え始めると、ブリタニカを読むなんて、とんだ愚行に思えてくる。たいていの人はここでやめるだろう。ところが著者はやめなかった。いろいろ悩みつつも、まあやってみよう、と読み始めてしまうのだ。それで結局どうなったかというと……。というのは読んでのお楽しみ。
 いや、面白かったです。やってることといえば、それぞれの項目に感心したり、驚いたり、退屈したり、ツッコミを入れたり、日々の生活の中で思わぬシンクロニシティを体験したりしながら、ちまちまブリタニカを読み進めているだけなんだけど、語り口が巧みなせいで、読んでるこっちまでブリタニカの旅を追体験できます。まるで著者の肩越しにページを覗き込んでいるように。その旅は興味深いどころか、感動的ですらあります。さっきクエストという言葉を使いましたが、目的地にたどり着く道のりに意味があるという、まさにクエストの語で表すのが相応しい、知的な冒険の書と言えるでしょう。本を読んでいるときの感想と日々の出来事を同時進行で記録しているスタイルは、ちょっとブログっぽいかもしれません。
 著者は『エスクァイア』誌の編集者で、文章も達者。翻訳もよくて、ユーモアに溢れて読みやすいです。電車の中で読んでいて、口元が緩むのを抑え切れないことが何回もありました。本を読むのが好きな人、雑学が好きな人、そして、かつては自分のことを天才だと思っていた(が、そうではないと気づいた)世の全てのボンクラどもにお勧めします。面白いよ!

驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!

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