ディアスポラ

 読み終わったー! ものすごく面白かった! でも全然わかんない! でも面白かった! 遠未来、肉体を捨ててソフトウェア化した人類が辿る究極への旅路。文字通りに想像を絶するビジョンがぎっしり詰まった、特濃のハードSFでした。とうてい万人にお勧めはできません。その代わり全力で取り組めば、努力に見合ったワンダーが待っているはず。頭を絞る快感を味わうことのできる「難しいSF」です。読んでいる間じゅうずっと、理解力を試されてるような気がしてました。
 いきなりハードルが高い(と言われている)冒頭のシーンは、人間の知性の人工的な創出プロセスを描いたものです。映画版の攻殻機動隊のタイトルバックが、サイボーグの義体製作工程の映像でしたが、あれを義体ではなく「精神」でやっていると思えばよいです。判ってしまえば興味深く読めるでしょう。ここで作られている主人公(の一人)を初めとして、主要な登場人物のほとんどは、「ポリス」と呼ばれるコンピュータ上の仮想空間に生きる、ソフトウェア化した人類です。この時代、人類には他に二つの種類があります。一つはグレイズナー。自分の精神をロボットの身体の中に入れて、宇宙空間へと進出しています。もう一種類は肉体人。読んで字のごとく、肉体を捨てずに、地球上で昔ながらの暮らしを営む人々です。30世紀の人類はそんな感じで住み分けているわけですが、あくまで主役はポリスの住人であります。以上の基本設定が判ってればだいじょぶだいじょぶ。あとはガンマ線バーストは超危険なエネルギー爆発ですよ、とか判ってれば。小ネタも充実してるし、ワンの絨毯なんか独立したネタなので読みやすいくらいだと思う。一番のキモは後半すごい勢いで出てくる高次元物理学。四次元五次元は当たり前ですよ。もう止まらねえぜ、ついて来れるかな、みたいな。この辺のネタは理解できる人の方が少ないだろうけど、でもここが一番難しくて面白いところなのよ。四次元空間が人間の目にどう見えるのかとか、考えると楽しいでしょ? そういう快感が、もういやってほど詰め込まれてます。満腹。
 あー、早く「移入」実用化されないかな。延命→スキャン→移入→ポストヒューマンと順調に体験していきたい。イーガンが提示する遠未来のビジョンはすごく楽しそうでわくわくします。はーやーくー。

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)