軍隊なき占領

軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫)

軍隊なき占領―戦後日本を操った謎の男 (講談社プラスアルファ文庫)

 太平洋戦争が終わり、日本を占領したアメリカは、日本の再設計にとりかかった。支配者たちを権力の座から追い立て、産業を独占していた財閥を解体し、収監されていた思想犯を釈放するなど、自由と民主主義の理想に基づく新しい日本を作り始めた。ところが、これに懸念を抱く者たちがいた。他ならぬアメリカ内部の資本主義者たちだ。日本とのビジネスに権益を持っていた彼ら保守派にとって、日本解体は迷惑千万。彼らはアメリカ対日協議会(ACJ)を結成し、「ジャパン・ロビー」として対日政策の方針転換を図った。財閥の解体を阻止し、巣鴨プリズンA級戦犯たちを中枢に復帰させ、既存の権力構造を極力損なわない形で戦後日本を作ろうとしたのだ。彼らの試みは成功し、敗戦国であるにもかかわらず、日本はアジアの周辺諸国に比べて格段に有利な位置から戦後の復興に取り組むことができた。この本は豊富な資料を基にジャパン・ロビーの暗躍を描き、戦後日本を裏から操ってきたフィクサーの姿を焙り出そうとするものである。
 彼らがやったことは、紛れもない陰謀であり、金と利権にまみれた汚い仕事だ。しかしその評価は難しい。というのも、ジャパン・ロビーと、その手先となった日本側の走狗たちが、まさにその汚い仕事によって、戦後の日本を富ませてきたことも確かだからだ。資本主義の恩恵を受けて生活しているわれわれ国民が、自分を棚に上げて彼らを非難することは難しい。また彼らの手によって、日本が極東における反共の砦として作り変えられたのも事実だ。ジャパン・ロビーの反動的な働きかけがなければ、日本の共産主義勢力は現状よりもはるかに強力になっていたはずだ。
 先ほど陰謀という言葉を使ったが、それは誤解を生むかもしれない。ジャパン・ロビーは何よりも利潤を追求するビジネスマンの集団だった。後世から見れば陰謀であっても、彼らにとっては単なるビジネスの一環にすぎなかったのだろう。ぼろぼろになった敗戦国をいまさら絞り上げてもなんの利益もない。極東に強力な資本主義国家を作り出し、長期的なビジネスのチャンスを得るほうが、彼らにとってはよほど合理的だったのだ。
 読み慣れない分野を扱った本にしては非常に読みやすく、刺激的な本だった。日本の復興におけるアメリカの関わり方のパターンが大まかにつかめた気がする。東側を扱った同じような本を読んでみたくなった。共産主義陣営は戦後日本に対してどういうアプローチを取ったのか、いい本がないか探してみようと思う。