真空融接

真空融接 (ビーボーイコミックス)

真空融接 (ビーボーイコミックス)

 本屋の店頭で表紙を見て、好みの絵柄だったので買ってみたんですが、これは当たりでした。
 生きる力を生み出す「供給者」と、自分では力を生み出せない「補給者」がペアで生きている架空の国を舞台にした連作漫画です。補給者は定期的に力をもらわないと生きていけないし、供給者も単独では力を放出できないので、やはり独りでは生きられない。ペアの組み合わせは異性も同性もありで、普通は幼いころに決定される。生命活動そのものに直結したこの結びつきは恋人よりも強い。そして、力のやり取りはキスで行なわれる。
 基本はこれだけです。なんと無駄のない設定でしょうか。作者の描きたいことを表現するための枠組みとして非常に洗練されている印象があります。描きたいことというのは、たとえば寄宿学校に通う少年たちのキスシーンだったりするわけですが、意外にも、予想していたようなボーイズラブっぽさはあまり感じられませんでした。ジャンルに引きずられていないとでも言いましょうか。今まで読んだことのあるこのジャンルの作品に比べると明らかに湿度が低く、読後感は妙に爽やかです。この爽やかさはおそらく、キスという行為が恋愛感情から切り離されていることによる異化作用によるものでしょう。実際作中でも、キスはむしろ食事に近い感覚で描かれています。少年たちがキスをしている絵はいかにもボーイズラブ的に見えますが、実は彼らの関係は、我々の知る「恋愛」とは違うのです。などということを考えると、僕の中ではこれはSFの範疇に入ります。うん、非常に面白かった。この設定ならいくらでも話が思いつきそうだし、シリーズ化してほしいとも思います。男でも、表紙の絵柄が気に入ったら買ってみて大丈夫。がんばってください。