鳥姫伝・霊玉伝・八妖伝

walkeri2005-01-27

 アメリカ人が書く、架空の中国を舞台にしたファンタジー三部作。評判いいのを知りつつしばらく積んであったんだけど、読み始めたら一気呵成、全部そろえてあっという間に読了してしまいました。面白かったー! 老賢者の李高と弟子の十牛が、怪事件の謎を解くべく広大な中国を東奔西走、神話の世界にまで足を踏み入れて大活躍。という痛快な娯楽活劇です。アメリカ人が書いた中国もの、と紹介されると拒否感を覚える向きもあるかもしれませんが、中国に関する作者の造詣は、そんじょそこらの日本人が及ばないほど深く、そして確信的に間違っているのがポイント。時代も地理も怪しく混ぜ合わされた架空の中国はとても魅力的で、たった3作でシリーズが終わってしまうのが勿体無く思えるほどです。
 貧乏な農民と残忍な領主、白昼堂々通りを行き来する盗賊団、抜け目のない商人たち、もったいぶった儒者に宦官、詩や舞楽に秀でた貴人、凌遅に代表される残虐な刑罰の数々、童謡に隠された古代の伝承、罠でいっぱいの地下迷宮、山海経に記されるような異獣怪神の類、そして天界と地獄にいまします神さま仏さま。などなど道具立てもさることながら、中国ファンタジーっぽさを最もよく表現しているのは、登場人物たちの倫理観でしょう。基本的にこの人たちは殺人と盗みに対する禁忌が薄い。十牛くんは純朴でまだいいけど、李老師はわりと容赦がなくて素敵。この師弟、死体損壊と遺棄に関してはベテランです。李老師は目的のために人を騙しまくるし、手癖悪すぎるし。小説の体裁としてはミステリ仕立てなんだけど、倫理規定がゆるいおかげで、事件の捜査がとてもスピーディなのが可笑しいです。2巻に出てくる美貌の男色家(攻守自在っぽい)とか、3巻の人肉料理描写とか、西洋ファンタジーの文脈ではなかなか表現しにくい題材を明るく書いていて、作者自身楽しんでいることが伺えます。しかしそうした鬼面人を驚かす演出は本題ではありません。怪事件を追って猥雑混沌たる人界を駆け回るうちに、李老師と十牛は、紅塵の巷を離れて神話伝説の領域へと入っていくのです。各巻後半の展開はまさにファンタジーと呼ぶに相応しく、一読驚嘆、巻を措くあたわずです。個人的に好きなのは鳥姫伝のクライマックスで、あのシーンはすばらしく美しい。
 この本は訳者にも恵まれていて、アメリカ人が英語で書いた中国の物語を、いちいち漢字表記を調べながら日本語に翻訳するという難事業を見事にこなしています。柔らかく温かみのある文体も作品の雰囲気をよく表していて、名訳と言っていいのではないでしょうか。小菅久美の表紙も僕は大好きです。色遣いが華やかでとてもよろしい。
 ちなみに八妖伝の原題が『エイト・スキルド・ジェントルメン』なのが超カッコイイ!とハァハァしてたら、一緒にいた王子に、
 「お前はジェントルメンってつけばなんでもいいんだろう!
 とひどいことを言われました。

 よ く わ か っ た な