アルハザードの逆襲 ISBN:4878920807

 青心社から出てた、日本人作家によるクトゥルフ神話オリジナル短編集。神話解釈はダーレスっぽいわかりやすいものなので、正直食い足りなかったですが、いまだ魔導師と怪物が幅を利かせているイスラーム黎明期のアラブ世界を、「狂えるアラブ人」アブドゥル・アルハザードが跳梁しては悪事をはたらく連作短編、という形式がユニーク。クトゥルフ神話の名前は知ってるけど、詳しいことは判らない、というくらいの人が、アラビアン・ファンタジーとして読む分には普通に楽しめそう。ダーレス萎えの人はややションボリするかもだけど、「逆襲」の最後に収録された表題作には不覚にも感じ入りました。2部作の最後を飾るこの短編は、「狂えるアラブ人」となったアブドゥル・アルハザードの、子供時代から始めて晩年に至るまでの生涯を書いた話なんですな。これまで2冊分付き合ってきた悪役である彼が、ここでは血の通ったキャラクターとして再び語りなおされるわけですよ。そして最後には神話ファンも納得の結末できれいに終わる。油断していた分、これにはちょっと感心しました。
 文章は荒いし、荒唐無稽と言われても仕方ない部分が多々あるんですが(これは多分、アラブのおとぎ話のような雰囲気を意識しているのもあるでしょう)、手を変え品を変えで楽しかったです。