「覆面の者は撃ち殺せ」チェチェンで覆面禁止令

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040827-00000102-yom-int

 【モスクワ=五十嵐弘一】覆面をかぶった男たちが夜間、寝ている一般市民を誘拐する――。こうした悪夢のような事態が日常的に繰り返されているロシア南部チェチェン共和国で26日、ルスラン・アルハノフ内相代行が、覆面禁止令を出した。
 インターファクス通信によると、「(共和国の首都)グローズヌイや他の町の街頭で、覆面をかぶった者を見つけたら、警察官は撃ち殺してかまわない」という内容で、警察官や治安部隊員に対しても、「適法に職務を行っているなら、顔を隠す必要はない」と命令順守を求めた。

 人権団体は、チェチェンでの市民誘拐には、ロシアからの分離独立を目指すイスラム武装勢力だけでなく、治安要員も関与していると指摘してきた。

(読売新聞) - 8月27日11時20分更新

 この覆面禁止令の対象になっているのはロシア軍人と親ロシア政権の治安部隊だ。記事の末尾にちらりと触れられているが、チェチェンで一般人の誘拐(と拷問、強姦、虐殺)を繰り返しているのは治安部隊で、最近の具体的な事例は「アムネスティ・インターナショナル、ヒューマンライツ・ウォッチ、拷問被害者のケアのための医療基金、メモリアルによる共同声明」で垣間見ることができる。チェチェン人によるモスクワでのテロがしばしばニュースになるが、現地で起こっている事態はチェチェン抵抗勢力VSロシア軍という単純な構図には収まらない陰惨なものだ。この地域では昔から(ロシア人の)マッチポンプによって紛争に火種が提供され続けてきた(参照→チェチェン紛争概説)。今回の記事が興味を惹くのは、この命令が政権内から治安部隊に対して出されたものだという点で、つまりこれは傀儡政権の中の敵対関係が表面に現れたと見ることができる。実際、政権内からもロシア軍に対する非難が噴出しており(参照→チェチェン人権状況報告)、現政権が分裂状態にあることは明らかだ。先日起こったカディロフ大統領爆殺もそうした動きの一環であるようだ(参照→カディロフを殺したのは誰か?)。カディロフ暗殺の翌日第一副首相の地位に着いた息子ラムザンは、先ほどリンクした共同声明に書かれていた通り、カディロフツィ(カディロフ一派)と呼ばれる新興武装勢力を組織して多数の一般市民を「失踪」させてきた人物である(父親についてはWikipediaのアフマド・カディロフの項を参照)。今回の記事は一見奇妙だが、こうした私兵団(を組織する有力者)に対する牽制として捉えれば納得できる。ただしそれが実効を持つかどうかはまったく別の問題だが。