柳生一族の陰謀

 昨日かわしまさんと一緒に速水さんのとこで打ち合わせして、帰ろうとしたら引き止められた。時刻は深夜0時をまわったところ。速水さんが言うことにゃ「『柳生一族の陰謀』を布教中なので観よう観よう」「いや、おれ原稿進んでないから帰りますよ」「偉いなあ」「魚蹴さんは偉い人だ。心が洗われたような気がする」「原稿進んでないからえらくありません。帰りますよ」「まあまあ。さわりだけ観ていきなさい」「そうだよ魚蹴さん。さわりだけ観ようよ。昔の映画だからそんなに長くないよ、へいきへいき」「……わかりました。さわりだけですよ」
 たっぷり130分もありました。
 「たばかったな! 奸臣!」「奸臣言うな」「まあまあ。立ってないで座って観なさい」「あなどるな! このままでよい!」
 と台詞が時代がかってしまうほど衝撃的でした。いやあもうスンゴイ面白かったよ畜生。今日観るつもりなかったのに……。キル・ビルVol.1で台詞とBGMが"Yagyu Conspiracy"の名で引用されてましたが、こりゃあタランティーノも楽しんだはずだ。時代劇復活を掲げて作られたオールスター大作なんだけど、ありがちなぬるさや楽屋落ちがまったくない。監督が深作欣二で、『仁義なき戦い』みたいな東映実録ものをそのまま時代劇でやってて、登場人物に善人がほとんどいない。というか奸臣しかいない。完璧に間違ったことをすごい説得力で言うから困っちゃう。誰も彼も芝居が異様に濃くて、観ていると笑いがこみ上げてきます。滑稽だというんじゃなくて、なんというか、あまりのことに笑うしかないのよ。ものすごい。まあちょっとこの配役を見てください。邦画に詳しくない自分でもぎょっとする顔ぶれです。他の映画なら文句なく主役であるはずの、千葉真一柳生十兵衛が、他の役に食われまくってる……といえば少しはこの凄さが伝わるでしょうか。中でも速水さんイチオシの、成田三樹夫演ずる鳥丸少将文麿(からすましょうしょうあやまろ)がかっこよすぎ。まろはいやでおじゃる、とか言ってる白塗りお歯黒の公家なのに強いのよ。剣術が。なよなよしてるくせに、十兵衛が出てきても怯みもしない。怪演というのはこのことでしょうか。もう一人触れずにはおれないのが、この映画の実質的な主人公、柳生但馬守。歌舞伎と見紛うばかりの極度に時代がかった台詞回しで、作品全体を一人で引っ張ってます。演じるは子連れ狼萬屋錦之介。この人がこの役どころにいなければ、金ばかりかけた凡作になっていたかもしれません。それほど圧倒的な存在感を放っています。いや、こういう人がいたらそりゃ周りも引きずられるよ。ネットでいくつか感想を見てまわりましたが、但馬守に触れていない人はほとんどいなかったです。元々時代劇がフィールドではない深作欣二監督のもとで、色々新しい試みをやってるけれど、それが失敗に終わらなかったのは、萬屋錦之介によって時代劇としての芯が一本通っていたからだ、と評されてるようで、確かにその通りだと思います。DVDで出てるので、未見の方は是非ご覧あれかし。