波が風を消す ISBN:4150108587(版元品切れ)

 『収容所惑星』(id:walkeri:20040227)、『蟻塚の中のかぶと虫』(id:walkeri:20040310)に続く調査員マクシム・カンメラー・シリーズの最終巻。マクシムの下で働いていたある若い調査員と、彼が掘り起こした重大な事件についての回想録という形をとっていて、さまざまな文書、手紙、報告書と、それに対するマクシムのコメントや注釈が入り混じる面白い構成になっています。不可解な事件を追ううちに、事件の間の繋がりが見え始め、薄気味悪い事実が次第に明らかになってくる……という構図はクトゥルフものにも似た雰囲気で、緊迫感に溢れています。ふたひねりくらいしてなお余韻を残す結末は、この作者ならではといっていいのではないかと。いやあ楽しかった。三部作通して読んでびっくりしたのは、ロシアSFという先入観を打ち破る娯楽性の高さでした。手を変え品を変えて楽しませてくれるので、読み始めたらもう一気。リーダビリティ高いです。思弁的な部分もあるんですが、アメリカSFと比較すると、日本人に感性が近いのは実はこっちの方じゃないかな、という気がしました。『ストーカー』(id:walkeri:20030909)も面白かったし、僕もそろそろストルガツキーのファンを名乗ってもいいでしょうか。どうかな。
 このシリーズのもうちょっと詳しい紹介が「カタノの私室」のこちらのページにありますのでご紹介。作品紹介ページを見ると、群像社からいっぱい出てるなあ。読もう読もう。