蟻塚の中のかぶと虫 ISBN:4150108552(版元品切)

walkeri2004-03-10

 『収容所惑星』に続くマクシム・カンメラー・シリーズの二冊目。前作では溌剌とした若者だったマクシムも年をとり、中堅どころの有能な調査員になっています。失踪した《進歩官》(プログレッサー)、レフ・アバルキンを極秘裏に追え、という任務を受けて、アバルキンの不可解な足取りを辿るうちに、マクシムは彼の過去にまつわる極めて重大な秘密に直面するのだった。というのがあらすじ。面白い! ちゃんとエンターテインメントしてますよ。物語は地球でのマクシムの調査の合間に、アバルキンの過去の外惑星探査行の情景が挟まる形で進行します。この惑星探査の陰鬱な描写が非常によくて、これだけで一本書けるくらい魅力的。そしてここに出てくる犬に似たETI、「ビッグ・ヘッド」のシチェクンがかなりかっこいいです。言うことなすことみな素晴らしい。失敗してしょんぼりするのも萌えます。
 解決にもSF的なネタがちゃんと仕込まれているのでご安心。非常に読み応えがありました。前作とは独立していますが、取りこぼしていた伏線が回収されていて驚き。森の穴の中で遭遇したのはあれだったのね。混乱するのは《遍歴者》という用語で、前作とはまったく違うものを指していることに気付くまでちょっと戸惑いました。プログレッサーの概念については、次の『波が風を消す』で更に発展して論じられている気配(最初の部分を読んだだけなのでまだわかりませんが)。
 それにしてもこの表紙はいったいなんだろう。シチェクンはこんなドーベルマンみたいなのじゃないし、戦闘機なんて出てこないよ。どうもこのシリーズは表紙に恵まれてないな(マシな方かも、という気はするけど)。