ひかりの巫女 ISBN:4048981293

walkeri2003-08-06

面白いのに意外なほど話題になってない本。検索するとたいてい先に読んだ人の感想を見つける昨今、自力でこういうのを見つけると嬉しいね。火山と高層ビルが並び立つ*1「ミドルシティー」で繰り広げられる、トレンドスポッターと統合失調症のファッションモデルと都市の野生少女*2の物語。トレンドスポッターという職業は初めて知った。街を歩いて人や物を観察することで、次のトレンドを予想して、企業の宣伝のコンサルタントをするという、いわば大量消費社会における偵察局。実利を求める路上観察学者みたいなものか。本の腰巻にはオーウェルとかトマス・ウルフに匹敵するとか賛辞の文句が並んでたけど、むしろバラードを連想した。あらゆる物事が消費という行為に還元されていく現状を、その仕掛け人であるトレンドスポッターの側から描いているという点では、北欧家具でいっぱいの部屋を手製の爆弾*3で吹き飛ばしてしまった『ファイト・クラブ』と、ちょうど表裏一体をなしているとも言える。
ところで、トレンドスポッティングはゲーム化すると楽しそうだ*4コンポーネントに凝ったカードゲームかボードゲームで。場に出たカードを組み合わせて未来の(変な/ブラックな/性質の悪い/面白い)トレンドを作る。ただ作るだけじゃなくてプレゼンフェイズがあってもいいかも。作中出てくる「トレンドブック」というガジェットも魅力的なので使いたい。しかし何かを見てすぐゲーム化できないかと考えるのは、トレンドスポッターのやってることとちょっと似てる。消費のサイクルに取り込まれた物事がすぐに陳腐化するのと同様、ゲーム化された作品はやっぱりちょっと色褪せる(たとえばプレステのゲームになったハリー・ポッターは、まだ世に出たばかりの原作に比べれば、手垢にまみれてくすんで見えるだろう)。別にゲームに限った話ではないな。いい悪いという話でもないので誤解しないでほしい。今ここで、人に知られていない本を紹介してるのも同じような行為だ。そう考えてみると、トレンドスポッターのやっていることは、実は特殊なことでもなんでもないのかもしれない。
まあなんだ。色々面白かったので。買いたまえ(と消費を勧める)。
 

*1:なんかシャドウランっぽい光景だ

*2:瘢痕文身とかする本格派

*3:ちなみに、手製の爆弾はこの物語にも登場する

*4:鴻さんが作るといいと思う(人任せ)