イラク 狼の谷

 トルコの元諜報員がイラクで活躍する「反米アクション映画」。このアオリを見たときは、またまたーとか言って本気にしてなかったんだけど、ほんとに反米アクションと呼ぶしかないような代物だったのでびっくりした。馴染み深いハリウッド映画の文法で撮られているのに、根底の思想がまったく違うので、すごく変な感じ。
 敵役は米軍で、いろいろ残虐なことをするんだけど、その悪事の働き方があまりにベタというか劇画的なので、思わず笑ってしまいそうになる。実際にイラクで行なわれたこと(アブグレイブ刑務所での捕虜虐待とか)と、確かめられていない噂話、あるあr……ねーよwwwな陰謀論がいっしょくたになっているので、一歩引いた位置から見ている我々には荒唐無稽に見えてしまうのだ。しかし、だからといってそれをただ笑い飛ばすことはできなかった。中東という難しい地域で生きている人たちの真剣さが、映画の至るところから感じ取れてしまったからだ。イスラーム圏で大ヒットしたというから、ここで描かれている世界観は、彼らの皮膚感覚にフィットするものなんだろうと思う。正規軍もPMCも怪しげな私兵集団もまとめて「米軍」なんだなー、とか。トルコ系とアラブ系とクルド系の三勢力の中だと、クルド人はやっぱりこんな風に見られてるんだなー、とか。
 主人公ポラットを演じる俳優は、もっさりしてるけどなかなか精悍。欧米のアクション映画の主人公だったら絶対やらないような作戦ばかり実行するので、先の予測がつかず大変面白かった。この主人公、劇中ほとんど笑った顔を見せなかった気がする(あずまやで爺さんと話すときは笑ってたっけ? 憶えてない)。配下の3人もいい顔の俳優が揃っていた。
 いろいろ意表を突かれる描写がある映画なので、事前に情報を入れずに観て正解だった。自爆テロの描写とか、映画的にすばらしい。あと宗教指導者のケルクーキ導師がとてもかっこいい。惚れる。彼の台詞からは映画製作者の主張がたっぷり漏れてくるので謹聴されたし。