夜神月に不足していたもの

 夜神月がまずやるべきは、デスノートにif文とfor文を実装する手段を見つけることだった。仮にも「新世界の神」を志しておきながら、非効率極まりない手作業に頼るしかないとは! 殺戮のプロセスを自動化して放置しておけば、警察にわずらわされることもなかったはずだ。特に、ワイミーハウスの子供たちとの対決に引きずり込まれてからの、夜神月の振る舞いは、まさにバッドノウハウの塊といったありさまで目も当てられない。
 彼の限界はそこにあった。彼は「非常にうまくツールを使える人」であって、ハッカーではなかったのだ。デスノートを使って社会をハックしようとしながらも、デスノート自体をハックすることは考えなかった。
 デスノートソースコードが公開されていない強力なツールで、多数の制限がかかっている。もし夜神月デスノートの動作を逆アセンブルして、そのロジックを解析していれば、プロテクトを解除することも、パッチを当てることもできるようになっていたかもしれない。死神がデスノートと使用者に強く結びついていることを考えると、デスノートのハックは死神界をハックすることにも繋がるだろう。そこまで行けば、「死」そのもののハックも視野に入ってくる。その領域に到達したときの夜神月は、既に「神」などという称号にはなんの価値も感じない存在、新しい「何か」になっていたはずである。
 彼が失敗したのは残念なことだ。次にノートを手に入れた者は、どこまで行くことができるだろうか。