苦悩のオレンジ、狂気のブルー

 COCOさんえびすさんもお勧めのデイヴィッド・マレルの短編集。期待に違わず面白かったです。
 著者自身述懐しているとおり、この本に納められた作品にはすべて、「大切な人を失うことへの恐怖」というテーマが通底しています。「墓から伸びる美しい髪」「慰霊所」など後期の作品になるとそれが顕著になります。というのも、これらの作品を書く以前に、マレルは息子を骨肉腫で亡くしているのです。
 特に、息子を失って間もなく書かれたという「墓から伸びる美しい髪」は、お話としてはそれほど出来がいいわけでもないのですが、ほとんど読者を置き去りにする勢いで哀しみと怒りを爆発させる主人公が、耐え難い悲劇を体験した著者の姿に重なって、強く心を打たれます。
 傑作と名高い表題作は、確かにホラーRPGのシナリオみたいで純粋に楽しく読めました。「贖罪」もよかったな。あ、今思いついたけど、もしかして「食材」とかけているのか(んなこたーない)

苦悩のオレンジ、狂気のブルー (柏艪舎文芸シリーズ)

苦悩のオレンジ、狂気のブルー (柏艪舎文芸シリーズ)