冬の夜ひとりの旅人が ISBN:4480030875

walkeri2004-05-13

 あなたは魚蹴の新しい日記を読もうとしている、と書き始めたがこのネタは他の書評でとっくにやられているのでやめることにする。というか誰でも考え付くことであり安易なパスティーシュはかぶり死ぬ可能性が高いので危険だということである。
 これは「本を読むこと」についての本である。そういうと途端に小難しそうに思えてくるかもしれないが、実はそれどころか、非常にリーダビリティの高い、引きの強いエンターテインメントである。主人公となる男性読者は、イタロ・カルヴィーノの新刊『冬の夜ひとりの旅人が』を読みはじめるが、これがなかなか先に進めない。乱丁、落丁は序の口で、およそありえないような理由で邪魔が入って、いつも読書が中断されてしまうのである。男性読者は続きを読むためにさまよい歩く。大学の研究室、出版社、果ては飛行機に乗って外国まで行ってしまう。あなたは次第に、男性読者と一体になって、読書体験を共有することになる。なにしろ作中で男性読者が読む小説は実に面白そうなのに、常にいいところで中断されてしまうのである。だから男性読者は、「続きを読みたい」というあなたと同じ動機を持って物語の中を動き回るのである。技巧に富んだ小説だが、その技巧がテーマに密着しているのが面白い。本が、特に小説が好きなあなたには自信を持ってお勧めできる。二人称で読者に呼びかける形式の小説形態に馴染みのあるあなたは、ゲームブックと比較して楽しむこともできるだろう。さあ、ページをめくりたまえ!*1

*1:と付け加える誘惑に勝てなかった。