ギニアの漂着死骸はガチですごいものかもしれない

 X51.ENEMA: 毛の生えた謎の巨大生物死骸が漂着 ギニアを見て、すごいなあ、何だろうこれと思ったので調べてみた。
 元記事はFishki.Net: Морская тварьで、バベル魚に訳してもらった結果がこれ。「there is entire the "whiskers, paws, tail"... There is no scale. But on the spin crest and fur... Form from peredi. It lies on the spin. With the open mouth are visible front and rear "paws"」……毛が生えてるってのはこの手の漂着物にはありがちで、筋繊維の露出した脂肪だとか言われたりするけど、これは毛むくじゃらというほどでもないし、体毛のある生き物というわけでもなさそうだ。
 元記事のコメントを見てると、オサガメ(Leathery tortoise, Dermochelys coriacea)じゃないのという意見があった。んー? あ、そうか、これ逆さになってるんだ! 訳文の「It lies on the spin」ってのはひっくり返ってるってことだな。なるほど、確かに甲羅を下にして横たわっているように見える。天地を逆にしてみるとこんな感じ。

 いやちょっと待てよ、とここで疑問。
 ウミガメって、こんなにでかくなったっけ?
 原生のウミガメは、大きく2つの仲間に分類される。1つはウミガメ科。2つ目はオサガメ科。ウミガメ科はアオウミガメとかアカウミガメとかタイマイとか、何枚もの甲板が組み合わさった硬い甲羅を持つ連中だ。一般に、ウミガメと聞いてぱっと思い浮かべるのはこっちだろう。
 一方のオサガメ科は、骨の板ではなく柔らかい皮膚でできた甲羅を持つ変わり者で、全体的なフォルムものっぺりしている。Wikipediaの文章を引用すると、「背甲は黒く滑らかで、頭から尾の方向のうね状の隆起がある。背甲は骨ではなく、柔らかい弾力性のある皮膚でできている。英名Leatherback Sea Turtleは「革のような背中のウミガメ」という意味である。背甲と腹甲の繋ぎ目は他のカメのような鋭角ではなく、緩やかに湾曲しており、半円筒形に近い」。ウミガメ科と見比べてみてもオサガメのユニークさは明らかだ。オサガメの仲間は一属一種しか発見されていない。
 今回発見された漂着死骸に目を戻そう。これをウミガメの一種だと仮定してよく見ると、甲羅と思しき部分と、ヒレが出ている部分の間に継ぎ目はあるものの、その境界に顕著な段差はない。ウミガメ科のカメであれば、骨質の甲羅がひさしのように横に突き出しているはずだが、この死骸はそうではない。そうした特徴を持つウミガメは、オサガメ科オサガメ属オサガメ種の一種しか知られていない。腹側から見た印象もかなり近いように思われる
 しかし、この大きさはどうだろう。確かにウミガメの中でも、オサガメは特に大きくなることが知られている。甲長2mはざらで、それ以上に育つこともあるらしい。だが、この死骸の大きさは、これまでの(信憑性の低い)記録すら軽々と超えているように見える。だってこれ、控えめに見積もっても、全長4mぐらいはあるでしょう。普通のオサガメがいくらでかくなるって言ったって、人間を横に置いたらこんな対比になるはずだから、スケールがもう全然違う。
 つまり、もしこれがオサガメだったとしたら、誰もそこまで育つと思っていなかったような、史上最大級の標本が発見されたことになる。この時点で既にすごい、のだが、話はここで終わらないのだった。甲羅のディティールをよく見ようと思って、元記事の3枚目、横から撮られた写真を天地逆転して明るさを調節してみたところ、興味深いものが見つかった。

 画面上側、甲羅の部分に筋が走っているのがお判りだろうか。問題はその方向だ。この筋は、体軸に対して横方向に走っている。Wikipediaの引用文をもう一度思い出してほしい。「背甲は黒く滑らかで、頭から尾の方向のうね状の隆起がある」。隆起の方向が違うのだ。この横方向に走る隆起は既知のオサガメの特徴ではない
 では、これは一体何であるのか。
 可能性1:オサガメである。
 横方向の隆起は、オサガメがこれほどまでに大型化して初めて現れる特徴である。あるいはもっと単純に、死んで肉が落ちたために体内の肋骨が浮き上がったものである。
 可能性2:オサガメに似た特徴を持つ近縁種である。
 これまでオサガメの仲間は1属1種のみ知られていたので、近縁種となれば必然的に新種、もしかすると新属になるかもしれない。
 可能性3:未知のウミガメである。
 ウミガメ上科(Chelonioidea)から分岐した、オサガメ科にもウミガメ科にも属さない、科のレベルで違う新種である。
 さらにこの考えを発展させると……
 可能性4:プロトステガ科の生き残りである。
 古生物に関心のある人がこの文章を読んでいたら、ある絶滅爬虫類の名前を既に何度も思い浮かべているかもしれない。そう、中生代の大ウミガメ、みんな大好きアーケロンである。いや、そんなまさか。第一あれは白亜紀後期の生き物で、とっくに絶滅しているはずじゃないか。まさしくごもっともで、アーケロンが現代まで生き延びているなんてのは、未知動物スキーの夢想にすぎなかったはずだ。しかし、ここでアーケロンの骨格を見直してみてほしい(http://images.google.co.jp/images?svnum=100&um=1&hl=ja&lr=&c2coff=1&as_qdr=all&q=Archelon+ischyros+&btnG=%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8%E6%A4%9C%E7%B4%A2)。アーケロンの甲羅は、背骨から左右に伸びた骨組みの上に皮膚を張った軽量のもので、オサガメと同様の「Leatherback」だった(アーケロンの属するプロトステガ科のウミガメは、みんなこの構造を持っていたようだ)。皮膚の上から見れば、甲羅の骨組みは横方向の隆起として現れたことだろう。ちょうど今回発見された死骸のような
 この死骸がそのまんまアーケロンであると主張したいわけではない。サイズ的には合致するし、そう言い切ってしまいたくもなるが、写真を見比べると、アーケロンの骨格とは微妙に相違がある気もする。だからここでは、「中生代に生息していたウミガメ類、プロトステガ科の生き残りという可能性がある」とだけ述べるに留める。などといいつつも、アーケロンの復元図を見て、写真の死骸に目を戻すと、何とはなしに胸に来るものがあったりなかったりもするのである。
 これらの仮説の中に正解があるかどうかは判らないが、いずれにしてもすごいことだ。最も可能性が高いであろう「史上最大のオサガメ」というだけでも大発見なのだから。そして、X51の記事中に「調査した現地の科学者は、同様の生物は以前にも目撃したことあるが、如何なる生物かは全く分からないと話している」とかさらっと書かれてるのを見逃してはいけない。他にもいるんだぜ! これが! 何をグダグダしてやがる! さっさとギニアに行かんかー!!(渡海さんオチ)