ムニャムニャ

ブログ文章術<一文を短くって言うけどさ>

 http://blog.excite.co.jp/blog-jutsu/1582135/
 各所で盛り上がってる、文章を短くするやつ。

お皿ひとつひとつに、それぞれ、ハムや卵や、パセリや、キャベツ、ほうれんそう、お台所に残って在るもの一切合切、いろとりどりに、美しく配合させて、手際よく並べて出すのであって、手数は要らず、経済的だし、ちっとも、おいしくはないけれども、でも食卓は、ずいぶん賑やかに華麗になって、何だか、たいへん贅沢な御馳走のように見えるのだ。

 これをセンテンスに区切って読みやすくしよう、というのが課題。自分ではやらないつもりだったんだけど、COCOさんがスティーブン・キング風に書いてたのを見て触発されました。
 センテンスが短いといえばあの人。
 獏だよ。

 さら、さら、さら、さら――
 一面の皿であった。
 白い皿。
 茶色い皿。
 小さい皿。
 大きい皿。
 食卓の上は、くまなく皿に覆い尽くされていた。
 よく磨かれた食卓の表面が、ほとんど見えないほどだった。
 どの皿も、無骨で、分厚く、いびつである。
 不器用な手が作った皿であった。
 だが、同時に――
 どこか人をひきつける皿でもある。
 不器用だが――
 あたたかいのだ。
 作った者の手のぬくもりと、まごころを感じさせる皿ばかりであった。
 無造作にかけられた釉薬の跡に、たまらぬ味わいがあった。
 その、皿の上に――
 食い物があった。
 いろとりどりの食い物が、皿の上に盛られているのだ。
 ハム。
 卵。
 パセリ。
 キャベツ。
 ほうれんそう。
 一枚の皿に、一種類ずつ――
 台所にあるものを、一切合切出してきたようだった。
「――うまそうだなあ」
 しみじみと言った。
 美しい。
 そう思った。
「――うまいものかよ」
「なに!?」
「こんなことをするのは、経済だからよ」
「経済!?」
 ぞくり、と背筋に震えが走った。
「経済とは――どういうことだ」
「知れたことよ」
 酷薄な笑みが、男の唇に浮かんだ。
「こんなもんは残り物だ。誰も好きこのんで食いやしねえ」
 だが――
「こうしてこぎれいに配合して、手際よく並べてやれば、どうだい」
「食卓が、賑やかで、華麗になって――」
「そうよ。手数もぜんぜんかからねえ」
「贅沢なご馳走のように見えるが――違うのか」
「違う」
「――――」
「実際食ってみるとな――」
 にたり、と男はすごい笑みを見せた。
「ちっともおいしくなんかねえんだよ」
「な――」
 なんという――
 なんという、えげつないやり方なのか。
 物を食う楽しみを犠牲にしてまで――
 経済という、たった一つの目的のために、そこまでやるというのか。
 そう思って、男の顔を見たとき、不意に気づいた。
 笑っているのではない。
 哭いているのだ。
 まるで笑っているかのように顔をゆがめて、声も出さずに――
 男は哭いているのだった。
 ――ああ。
 すまん。
 すまん。
 俺が悪かった。
 誰だって、うまいものが食えれば、食うに決まっている。
 そのうまいものが食えないから、わざわざこんなことをするのだ。
 まともな食い物がない――
 その哀しみを、経済という言葉で覆い隠して、男は哭いているのだった。
「おい――」
 無理矢理に、声を絞り出した。
「行こう」
「どこへだい」
「どこだっていい」
 なかば意識せずに、口走っていた。
「飯を食おう」
「飯なら、ここに――」
「気にするな」
「だが、金が――」
「気にするな」
 男の肩に手を回して、戸口をくぐる。
「俺のおごりだ」
「いいのか」
「いいとも」
「では、ゆこう」
「ゆこう」
 そういうことになった。
 桜の香る風が、小田原の夜を渡っていった。

 ほんとは長い文章も好きなんだけどな。石川淳とか。